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”めかとろ通信 第34号” <通電率のはなし>

当社の標準ソレノイドは多くのコイル仕様が用意されています。
カタログをご覧いただくと大きなコイルの定格表が目にはいります。
一般的な電機部品では、定格電圧を定めて使用する際にはその電圧で通電するのが一般的です。
たとえばリレーやランプなど、12V用、24V用などと定められ、その電圧以外で使用すると十分に機能しなかったり、
壊れたりするでしょう。ところが当社の標準ソレノイドにはこれを定めていません。電圧の表記はありますが、同一のコイルでも他の電圧と併記されています。
このため選定は少々面倒ですが、その理由と、得られるメリットもありますので、この辺について説明してみたいと思います。

通電率のはなし

1.コイルの選択

ソレノイドはそのコイルに通電すると吸引力を発生します。と同時に電力を消費し、その分のジュール熱を生じます。
発生した熱は大気中に放散されますが、コイルからケース、取付板などを経由する大気までの熱流ルートは使用する取付環境によって様々です。
このため、標準放熱板(※)を定め、このときに印加可能な最大電力を決めています。これが連続定格です。そしてこれを作動周期100%とし、通電時間を制限した、間欠通電における印加可能電圧を併記しています。
間欠通電の際の作動周期は記載されている式1で算出されます。この式は一周期におけるON時間の比を求めます。
一周期中の通電率と考えてください。この説明中では以後「通電率」で統一します。

(※)型式によって異なり、カタログに記載されています。

カタログには、間欠時の通電率として、50%、25%、10%を代表値として掲載しています。実際には、この中に納まらない通電率のことも多いと思います。その際には式2で通電可能電圧を算出してください。
例えば、4EC型ソレノイドのAWG28は、100%(連続)で13Vと記載があります。これを33%の通電率で使用した場合の電圧を式2から求めると次のようになります。

2.通電率と得られる出力


このコイルには33%の通電率であれば、22.6Vで通電できます。こうして通電可能な電圧が求められますが、その時に得られる吸引力はどのくらいになるのでしょうか。ソレノイドの吸引力はストロークに大きく依存します。カタログには代表通電率の際に得られる吸引力を記載しています。図表4「ストロークー吸引力」グラフがそれで、図中の10%、25%、50%、100%が通電率になります。先ほどの例とした33%は記載がありませんが、次の手順で求めることが出来ます。例としてストローク3mmで得られる吸引力を求めるには、図表2「アンペア・ターン-吸引力」グラフから以下の手順で読み取ります。
このように手順を踏む必要がありますが、実環境の通電条件から発生する吸引力を求めることが出来ます。コイルの種類の多さから、広範囲の条件に最適値を合致させることが出来ます。もし、求める推力が得られない、電圧が用意した電源と合わないといった場合にはコイルのAWG番号を変更して式2から再計算してください。
なお、前記のように、ここで使用した連続通電可能な電力は標準放熱板に取付けた際のもので、これと放熱条件が異なる場合には見直しが必要となりますのでご注意ください。また型式によっては「放熱板なし」を標準状態としているものもあります。

3.最大ON時間

カタログに記載された通電率の算出式は一周期の絶対時間を決めていません。
一周期が10秒で通電時間が1秒のときには通電率10%です。また100秒の周期中で通電時間が10秒でも同様に10%となります。このとき例に挙げている4EC型で、コイル定格表の10%の電圧を適用すると、コイルは焼損する可能性があります。なぜでしょうか。コイルの定格表には最大ON時間という欄があります。4EC型10%では9秒と規定されています。この条件から逸脱してしまうことになるのです。
一周期が10秒の場合には、ON時間は1秒ですから問題ありません。この時間は各ソレノイドの持つ熱時定数から求めたもので、型式、サイズによってそれぞれ異なります。通電率を算出する際に、目的のソレノイドの定格表で通電時間がこの値以下に収まっていることを確認してください。この例では10秒の通電時間が可能なのは25%になるので、ここに定義されている26Vまでになります。当然、吸引力が25%に記載されている値になりますから、これで不足する場合にはサイズの変更が必要となります。
通電率の計算の際には、通電の時間制限にご注意ください。また、繰り返しの時間が不定の場合には通電率の計算が難しい場合もあります。この際にもこの時間制限を守ってください。

4.通電電力の最適化

アプリケーションによっては、かなり長時間の保持が必要な場合があります。この場合には、保持に必要な電力を通電し続ける必要があります。
ソレノイドの発生する吸引力は磁極の形状と磁気ギャップに大きく依存します。磁気ギャップの大きな作動初期よりも作動終了後のギャップの小さくなったときに大きな値を示します。この傾向は円錐型の磁極形状のコニカル型よりも、平坦な磁極を持つフラット型の方が大きく変化します。この辺の様子は「めかとろ通信」27号に詳しく記載されています。
このように長時間の保持を行う際には保持の際に電圧を下げることで、駆動電力を大幅に減らすことが可能です。逆に、駆動時のみに高電圧を加えるオーバドライブを行う場合もあります。ギャップの大きな領域で吸引力の得にくいときのみ大きな電圧で動作を補助します。これらの駆動方法においては、一駆動周期中に電圧が変化しますので、カタログに記載の算出式ですと通電率に誤差を生じます。この際には下式のような考え方で判断してください。

5.磁気飽和

ソレノイドの発生する吸引力は、コイルに通電する電流による起磁力に比例します。ただし、これは磁路中を通過する磁束の量がある量を越えると次第に飽和を生じます。従って比例関係が無くなります。この様子を次のグラフに示します。磁気ギャップが大きい、ストロークの長い領域は直線的ですが、ギャップの小さい領域は飽和傾向を示していることが分かります。ギャップが小さいと、磁気抵抗が減少するために同じ電流による起磁力でも磁束の量が多くなり、磁極が磁気飽和を生じるためです。これは、駆動時に大きな電力を加えても得られる吸引力が印加する電力時のオーバドライブによる補助も効果が得にくいことにもなります。カタログに記載されている最大電力は通電率10%時ですが、これを上回ると飽和が顕著となり、効率が著しく低下します。通電率5%程度で算出される電力が実用的な上限と考えてください。

6.終わりに

「通電率」は普通に使用される用語だと思います。それほど深く考えることもないかと思いますが、ソレノイドの定格を考える上では欠かせない概念です。ただ、当社のカタログを読みにくくしているのも確かで、見直しを求める声も上がっています。ソレノイドを使用していただいているお客様の使用条件は様々で、すべては無理としてもできるだけ多くの条件に合致させたいと考えると、幅を持たせた種類の管理は必要なのだろうと思います。読みやすく、必要な条件に確実に合致した選択が可能な資料を目指します。
■この資料の内容は改良の為、お断り無く変更することがありますのでご了承ください